この記事の結論

商標登録は、市場投入前だけでなく、ブランドの成長、顧客層や名称の変更、別の商品・サービスへの展開に合わせて見直します。「あずきバー」「シーブリーズ」「通勤快足」の出願経過から、そのタイミングを考えます。

商標登録出願は、新しい商品やサービスの名前を決めたときだけに行うものではありません。ブランドの認知が広がったとき、顧客層を変えるとき、別の商品へ展開するときにも、出願を考える場面があります。

事業の成長を考える手がかりになるのが、「市場」と「商品・サービス」をそれぞれ既存・新規に分けるアンゾフの成長マトリックスです。

アンゾフの成長マトリックス
市場既存の商品・サービス新しい商品・サービス
既存市場市場浸透
今の市場で認知やシェアを広げる
製品開発
今の顧客へ新しい商品を届ける
新市場市場開拓
新しい顧客層や地域へ広げる
多角化
新しい市場に新しい商品で進む

成長戦略の考え方:中小機構 J-Net21「アンゾフの成長マトリックス」

こうした成長の過程では、ブランドの知名度だけでなく、使う名称や対象の商品・サービスも変わります。そこで、市場投入前、ブランドが育ったとき、顧客層を変えるとき、ブランド名を変えるとき、事業を広げるときの5つに分け、実際の出願例を見ていきます。

1.新商品・新サービスを立ち上げるとき――市場投入前に調査・出願する

最初は、新しい商品名やサービス名を決めたときです。ロゴ、Webサイト、パッケージ、広告などの制作を進める前に、同一・類似の先行商標がないかを調べます。

先に似た商標が登録されていれば、登録できるかに加え、その名称を使えるかも検討が必要です。また、他人の権利を侵害しない名称でも、出願せずに使い始めれば、後から同じ名称を出願されたり、模倣されたときに対応しにくくなったりするリスクがあります。

名称候補を決める → 商標を調査する → 使用する商品・サービスを確認する → 出願する → ブランドへの投資を進める

この順序を基本に、商標登録はいつ申請するべきかを検討します。

もう一つ考えたいのが、内容の伝わりやすい名前と、商標として保護しやすい名前は、必ずしも同じではないという点です。

サントリーが1986年に発売した「はちみつレモン」は、「はちみつ」と「レモン」という原材料を表す語を組み合わせた名称です。このような名称は、商品の原材料をそのまま表すものとして、文字だけでは商標としての識別力が認められにくくなります。

実際、TeaCoffee事件の判決(大阪地裁平成31年3月14日)でも、「はちみつレモン」は、原材料名を組み合わせた飲料の商品名の一例として挙げられています。

一方、サントリーは「はちみつレモン」の文字と図形などを組み合わせたラベル商標について、登録第2532532号の登録を受けています。

登録例:商標「はちみつレモン」を含むラベル商標登録第2532532号

特徴のある図形やロゴを組み合わせれば登録できる場合がありますが、それによって原材料名を表す文字自体について、常に同じ範囲の保護が得られるわけではありません。詳しくはロゴ商標と文字商標の違いをご覧ください。

名前を決める段階では、顧客に内容が伝わるかとともに、その名称を自社のブランドとして育て、保護しやすいかも考えておきたいところです。

2.ブランドが育ったとき――使用による識別力を再検討する

商品の内容を表すなどの理由で登録が難しい名称も、使い続けるうちに、特定の会社の商品を示すものとして認識されることがあります。

商標法第3条第2項は、商品の品質や原材料などを表すため本来は登録が難しい商標でも、使用された結果、特定の事業者の商品・サービスだと認識されるようになれば、登録を認めるという例外を定めています。

例えば、「あずきバー」は現在も井村屋を代表する商品として販売されています。

井村屋の公式沿革によると、発売は1973年です。これに対し、「あずきバー」の標準文字商標を出願したのは2010年7月5日。発売から約37年が経過していました。

知財高裁の判決(平成25年1月24日)では、販売数量が2005年度の1億3700万本から2010年度には2億5800万本に増えたことや、1989年以降、中断を挟みながらテレビCMを行ってきたことなどが認定されています。

「あずき」と「バー」という言葉から商品の内容を想像しやすい名称ですが、長年にわたる販売や広告宣伝などによって、井村屋の商品を示す名称として広く認識されるようになりました。その結果、「あずきバー」の標準文字商標は、商標法第3条第2項の適用を受けて登録されています。

登録例:商標「あずきバー」登録第5580635号/第30類/井村屋グループ株式会社

この例が示すように、ブランドの認知が広がれば、名称の登録可能性が変わる場合があります。以前は登録が難しかった名称も、販売実績や広告宣伝、顧客の認知度に変化があれば、改めて登録を検討する意味があります。

検討に備え、販売数量や売上、広告宣伝の実績などを示す記録を残しておきましょう。具体的な資料の残し方は、商標の使用証拠を残す4つの場面で紹介しています。

3.顧客層や利用場面を変えるとき――新しい名称・表示も検討する

同じ商品でも、届けたい顧客や使ってもらう場面を変えることがあります。これまでのブランドの位置付けを変える「リポジショニング」も、商標を見直すタイミングです。

例えば、ボディケアブランドの「シーブリーズ」は、マリンスポーツを楽しむ若者に向けて、「海」「夏」「太陽」というイメージを築いてきました。

資生堂の2010年の発表資料によると、2007年には「デオ&ウォーター」をリニューアルし、使用場面を海から日常へ広げ、10代へのプロモーションを積極的に展開しました。

2010年の同資料では、女子高生がメインターゲットとされ、2007年3月から2009年12月までの出荷数量が780万本を超えたことも紹介されています。

この時期の商標出願を見ると、1986年に出願された「シーブリーズ」に加え、2007年12月28日には「アセのちさらさら」と「シーブリーズ」を組み合わせた商標が出願されています。

登録例:商標「シーブリーズ」登録第2086993号/1986年出願/第3類 登録例:商標「アセのちさらさら/シーブリーズ」登録第5149844号/2007年12月28日出願/第3類

顧客層や利用場面を変えるときには、ブランド名を残しながら、新しい言葉を組み合わせて訴求することもあります。「シーブリーズ」の出願は、従来のブランド名に加え、新たな表示についても保護を考える例として参考になります。

顧客層を変えただけで追加出願が必要になるわけではありません。新しいシリーズ名や継続して使うフレーズ、ロゴを作るなら、その表示について調査・出願を検討します。ロゴや表記を変える場合は、商標登録後にロゴや表記を変えたら、追加出願は必要かもご覧ください。

4.ブランド名を変更するとき――新しい名称を使う前に出願する

ブランド名そのものを変えるときには、新しい名称について商標調査と出願を検討します。元の名称で登録していても、それだけで新しい名称を保護できるとは限りません。

レナウンの紳士用靴下には、「フレッシュライフ」から「通勤快足」へ名称を変えた例があります。「フレッシュライフ」と比べ、「通勤快足」は、通勤する人の足元の快適さを思い浮かべやすい名前です。発売から30年後にもコラボレーション商品が発売される、ロングセラーブランドになりました。

商標の出願経過を見ると、「フレッシュ ライフ/FRESH LIFE」は1974年6月25日に出願されています。一方、「通勤快足」の出願日は1986年10月6日です。1987年の発売に先立ち、新しい名称を出願していました。

登録例:商標「フレッシュ ライフ/FRESH LIFE」登録第1335944号/1974年6月25日出願 登録例:商標「通勤快足」登録第2093963号/1986年10月6日出願/第25類・被服

名称変更の後ではなく、新しいブランド名で市場に出る前に出願している点が、この例のポイントです。

ブランド名を変えると、ロゴ、パッケージ、Webサイト、広告なども作り直すことになります。新しい名称の候補を絞った段階で商標調査を行い、登録の見通しと使用上のリスクを確かめてから、出願と制作を進めましょう。

5.新商品への展開・事業拡大をするとき――追加出願が必要か確認する

最後は、育ったブランドを別の商品やサービスに広げるときです。商標権の範囲は、登録時に指定した商品・役務との関係で決まるため、ブランド名が同じでも、新たな商品・サービスについて出願が必要になることがあります。

先ほどの「通勤快足」には、被服を対象とする登録に加え、2000年11月15日に紙類・印刷物・文房具類なども指定した出願が行われています。

登録例:商標「通勤快足」――紙類・文房具類など登録第4510186号/2000年11月15日出願/第16類・第24類・第25類

これは、靴下のブランドについて、被服以外の商品も指定して出願した事例です。同じブランドを別の商品に使うときには、新たな商品についても保護を考える必要があります。

自社で同じ展開を考えるなら、新しい商品・サービスが現在の登録の指定内容に含まれるかを確認します。確認の仕方は、区分と指定商品・役務の考え方で解説しています。

なお、販売方法がECやサブスクリプションに変わっただけで、直ちに別の区分や追加出願が必要になるわけではありません。実際に提供する商品・サービスの内容で判断します。

新商品・新サービスを始める前に、既存の登録内容を確認し、追加出願が必要かを検討しましょう。

事業の変化に合わせて、商標登録を見直す

市場投入前に名前を確保する。認知が広がった段階で、文字自体の登録を検討する。顧客層やブランド名、商品分野を変えるときに、新たな出願を考える。商標登録を検討する時期は、事業の歩みによって変わります。

次の展開を決めるときには、「何という名前を、どの商品・サービスに使うのか」を現在の登録内容と照らし合わせてみてください。登録後の具体的な確認項目は、登録した商標、今の事業に合っていますか――登録後に確認したい6つのズレで紹介しています。

よくある質問

同じブランドで新商品を出すたびに、追加出願が必要ですか?

必ず必要になるわけではありません。まず、既存の登録で指定している具体的な商品・役務と、新商品の内容を照らし合わせます。登録済みの指定商品・指定役務を後から追加して広げることはできないため、新たな商品・役務については、必要に応じて追加出願を検討します。

関連情報:区分と指定商品・役務の考え方/特許庁:指定商品・指定役務の補正

顧客層や販売方法が変わっただけでも、追加出願が必要ですか?

顧客層の変更や、EC・サブスクリプションへの移行だけで、自動的に必要になるわけではありません。実際に提供する商品・サービス、使用する名称やロゴを確認します。新しいシリーズ名やサービス名を使い始める場合には、その名称についても調査や出願を検討します。

関連情報:新商品への展開・事業拡大/リブランディング時の確認

以前は登録が難しかった名称も、ブランドが育てば登録できますか?

商品の内容を表すなどの理由で識別力が認められにくい名称でも、使用によって特定の事業者の商品だと認識されるようになれば、登録が認められる場合があります。使用期間、販売実績、広告宣伝、認知度などを示す資料から検討します。長く使用したことだけで自動的に登録できるわけではなく、先行商標など他の登録要件も別途確認します。

関連情報:商標法第3条/あずきバー判決(PDF)

ラベルやロゴを登録していれば、商品名の文字自体も保護されますか?

文字と図形を組み合わせた商標の登録によって、商品名の文字自体について常に同じ範囲の保護が得られるわけではありません。文字部分の識別力や商標全体の構成、指定商品・指定役務との関係を確認します。原材料や品質を普通に表示する場合などには、商標権の効力が及ばないこともあります。

関連情報:ロゴ商標と文字商標の違い/商標法第26条・第27条

ブランド名を変更するとき、商標調査はいつ行うべきですか?

名称候補を絞り込んだ段階で、ロゴ、Webサイト、パッケージ、広告などへの投資を進める前に行うのが基本です。先行商標の有無、登録可能性、使用上のリスクを確認し、商標登録出願を検討してから制作を進めることで、手戻りを抑えやすくなります。

関連情報:商標登録はいつ申請するべきか

参考資料

出願日・指定商品・権利の状態はJ-PlatPat、販売やブランド展開の経緯は裁判例・企業資料で確認しています。以下の資料は2026年10月11日確認。

成長戦略・原記事

  1. 中小機構 J-Net21「アンゾフの成長マトリックス」(市場と商品・サービスの4つの成長方向)
  2. 中村幸雄「ブランド展開と商標登録出願の5つのタイミング」(2020年2月9日公開/本コラムのもとになった著者の記事)

法令・審査基準・裁判例

  1. e-Gov法令検索「商標法」(第3条、第25条〜第27条)
  2. 特許庁「商標審査基準」(第3条第1項第3号・第3条第2項関係)
  3. 知的財産高等裁判所 平成25年1月24日判決・平成24年(行ケ)第10285号「あずきバー」(PDF/出願日、販売・広告実績、使用による識別力)
  4. 大阪地方裁判所 平成31年3月14日判決・平成30年(ワ)第4954号「TeaCoffee」事件(PDF/判決12頁・別紙31頁:原材料名を組み合わせた飲料の商品名の例)
  5. 特許庁「手続補正書(商標出願の指定商品又は指定役務の補正)の書き方について」(指定商品・指定役務の補正の取扱い)

商標登録情報

  1. INPIT「J-PlatPat」商標「はちみつレモン」登録第2532532号(本文掲載の出願・登録例)
  2. INPIT「J-PlatPat」商標「あずきバー」登録第5580635号(本文掲載の出願・登録例)
  3. INPIT「J-PlatPat」商標「シーブリーズ」登録第2086993号(本文掲載の出願・登録例)
  4. INPIT「J-PlatPat」商標「アセのちさらさら/シーブリーズ」登録第5149844号(本文掲載の出願・登録例)
  5. INPIT「J-PlatPat」商標「フレッシュ ライフ/FRESH LIFE」登録第1335944号(本文掲載の出願・登録例)
  6. INPIT「J-PlatPat」商標「通勤快足」登録第2093963号(本文掲載の出願・登録例)
  7. INPIT「J-PlatPat」商標「通勤快足」登録第4510186号(本文掲載の出願・登録例)

ブランド・商品の沿革と展開

  1. サントリー「今発売されている『はちみつレモン』は、昔の『はちみつレモン』と同じ味ですか?」(発売時期・商品の沿革)
  2. 井村屋「あずきバー」の歴史(1973年の発売・2013年の商標登録)
  3. 資生堂「シーブリーズ デオ&ウォーター」2010年3月中旬発売(PDF/2007年のリニューアル、使用場面・顧客層の変化)
  4. ビームス「レナウンとのコラボレーションによる高機能ソックスを発売」(2017年9月22日/「通勤快足」の1987年の発売)

執筆・文責

弁理士 中村幸雄

サービス名、商品名、屋号、ロゴ、AIエージェント名など、名前とブランドに関する商標相談を扱う弁理士。「商標の余白」では、名前を使い始める前に、使用リスクや登録の見通しを確かめるための情報を発信しています。