サービス名やロゴは、継続的な使用を通じて、事業の信用と結びついていきます。Webサイト、広告、商品・サービス画面、契約書、請求書、提案資料など、取引のさまざまな場面で使われることで、その名前は商品やサービスの出所を示す目印として機能します。

商標実務で問題になるのは、その「使用の積み重ね」を、後から客観的に説明できるかどうかです。

いつから、その名前を使っていたのか。
どの商品・サービスについて使っていたのか。
どのような表示態様で使われていたのか。
取引者や需要者に、どの程度認識されていたのか。

これらは、商標登録前の使用、先使用権、使用による識別力、不使用取消審判、相手方表示への対応などで問題になることがあります。この記事では、商標の使用証拠をいつ、何のために残すべきかを、公証制度との関係から整理します。

公証制度では何ができるのか

公証制度とは、法務大臣が任命する公証人による法律サービスのことです。主に、客観的な証拠を保全することによって、法的紛争を未然に防止したり、紛争の早期解決に資することを目的としています。大切なのは「何を証明したいのか」を明確にすることです。目的によって、残すべき資料も使うべき制度も変わります。以下に、商標に関連が深い公証事務を示します。

公証事務 一般的な役割 注意点
確定日付 私文書に確定した日付を付与し、その日にその文書が存在していたことを示す。 文書の内容の正しさや、誰が作成したかまでは当然に証明しない。
私署証書の認証 私文書の署名・記名押印が本人のものであることを公証人が証明する。 文書の内容の真実性までは当然に証明しない。
宣誓認証 作成者が、公証人の面前で文書の記載内容が真実であることを宣誓し、その署名等について認証を受ける。 作成者の宣誓を残す制度であり、公証人が記載内容そのものを調査・判断するわけではない。虚偽の宣誓には制裁がある。
事実実験公正証書 公証人が、実際に見聞きし、確認した事実を公正証書として記録する。 公証人が商標の類否や侵害を判断するわけではない。
契約公正証書 契約などの法律行為の内容を、公正証書として作成する。 使用許諾やライセンスの内容をどう設計するかは、事前の整理が必要。

公証制度は、商標登録の代わりではない

公証制度を使っても、商標権が発生するわけではありません。公証制度は、名前やロゴを登録する制度でも、ブランドを独占する制度でもありません。名前やロゴを独占的に守る基本は、商標登録出願を行い、商標登録を受けることです。

公証制度の役割は、将来争点になり得る文書や事実について、「存在した時期」や「成立の信用性」を高めることにあります。たとえば、次のような事実の証明に役立ちます。

ある日に、サービス名やロゴを表示したWebページが存在していたこと
ある資料に、特定の商標が表示されていたこと
ある時点で、商品、パッケージ、広告、店舗表示、アプリストア表示が存在していたこと
ある商標について、取引や広告で使用されていたこと
相手方が、特定の名称やロゴをWeb上で表示していたこと

つまり、公証制度は「商標登録の代わり」ではなく、商標に関する使用事実や表示事実を後から説明しやすくするための選択肢です。重要なのは、「将来どのような事実が問題になりそうか」を見極め、それを説明できる資料を残しておくことです。

商標分野で、証拠を残すべき4つの場面

実務上は、次のような場面で「いつ、どの名前・ロゴが、どの商品・サービスについて、どのように使われていたか」が問題になります。

場面 後で問題になること 残すべき証拠
先使用権のために 他社の出願前から使用し、自社ブランドとして需要者の間に広く知られていたか LP、広告、売上資料、導入実績、メディア掲載、SNS運用記録
使用による識別力 その名前が自社ブランドとして認識されるに至ったか 広告実績、販売実績、取引資料、メディア掲載、利用者数
不使用取消審判への備え 登録商標を指定商品・役務について実際に使っていたか 商品写真、Web表示、広告、請求書、納品書、サービス画面
相手方表示の保全 他社がどの表示を、いつ、どこで使っていたか Webページ、SNS、アプリストア、ECページ、広告、商品表示

1. 先使用権のために

AIサービス名、SaaS名、アプリ名などでは、LPやSNSで名前を先に出し、その後に商標登録を検討するケースがあります。

しかし、先に使っていたというだけで、後から出願・登録された他人の商標に当然に対抗できるわけではありません。そのため、できるだけ早く商標登録出願を行い、商標登録しておくことが基本です。

ただし、例外的に、他人の出願前から不正競争の目的なく使っており、それが自社の商品・サービスを示すものとして需要者の間に広く認識されていた場合には、一定の範囲で使い続けられる「先使用権」が認められることがあります。ここでは、「先に使っていた時期」だけでなく、「需要者の間に広く認識されていたこと」を示す資料が重要になります。

LPやサービスサイトの公開記録
商品ページ、アプリストア画面、サービス画面
プレスリリース、note、YouTube動画、SNS運用記録
広告出稿記録、売上資料、請求書、契約書
導入社数、利用者数、メディア掲載、受賞歴

この場面で使いやすいのは、確定日付、私署証書の認証、宣誓認証、事実実験公正証書です。

たとえば、サービス名を表示したLP、パンフレット、営業資料、広告資料などについて、ある時点でその資料が存在していたことを残したい場合には、確定日付が候補になります。

使用開始時期や使用経緯を整理した説明書を作成する場合には、私署証書の認証が候補になります。たとえば、代表者や事業責任者が、いつからそのサービス名を使い始めたのか、どの商品・サービスについて使っていたのか、どの資料にその名称を表示していたのかを整理した「商標使用経緯説明書」を作成し、その署名が本人のものであることを認証してもらう使い方です。

さらに、使用開始日、LP公開日、広告出稿時期、取引開始時期、導入実績など、過去の事実関係を本人の供述としてより明確に残したい場合には、宣誓認証が候補になります。たとえば、代表者や担当者が「このサービス名をいつから、どのサービスについて、どのように使用してきたか」を記載した説明書について、公証人の面前でその記載が真実であることを宣誓する形です。

また、Webサイト、アプリストア、SNSアカウント、広告表示など、その時点の表示状態を第三者の立場で残したい場合には、事実実験公正証書が候補になります。

ただし、公証制度を使ったからといって、直ちに先使用権が認められるわけではありません。

2. 使用による識別力を説明する

商品やサービスの内容をそのまま説明する名前や業界でよく使われる言葉は、本来、識別力がないとして商標登録が認められにくい場合があります。

しかし、長期間の使用や大規模な広告・販売実績によって、需要者がその名前を特定の事業者の商品・サービスを示す目印として認識するようになった場合、例外的に登録が認められることがあります(商標法第3条第2項)。

この場合、自社の使用によって、その名前が「需要者に自社の商品・サービスを示すものとして認識されていること」を、客観的な資料で説明する必要があります。

売上資料、販売数量、導入社数、利用者数
広告費、広告出稿記録、Webアクセス数
メディア掲載、展示会出展記録、SNSフォロワー数
実際の使用態様が分かる商品・サービス画面

この場面では、公証制度は補助的な役割を果たします。たとえば、ある時点でその名称がLP、広告、サービス画面、パンフレットなどに表示されていたことを残すには、確定日付や事実実験公正証書が候補になります。また、その名称の使用期間、広告出稿、導入実績、販売実績、メディア掲載などを整理した説明書を作成し、作成者を明確にしたい場合には、私署証書の認証を検討できます。さらに、代表者や担当者が、名称の使用経緯や広告・販売実績について、真実であると宣誓した説明書を残したい場合には、宣誓認証が候補になります。

ただし、公証制度を使えば、使用による識別力が当然に認められるわけではありません。最も重要なのは「需要者から見て自社のブランドとして広く認識されているか」という実態です。

3. 不使用取消審判に備える

登録商標について、審判請求の登録前3年以内に日本国内で指定商品・指定役務について使用されていない場合、その登録は不使用取消審判の対象になることがあります。審判を請求された場合、商標権者側は、対象期間中に登録商標を指定商品・指定役務について使用していたことを証明する必要があります。使用を証明できなければ、登録商標が取り消される可能性があります。

よくある落とし穴として、次のようなケースがあります。

実際のサービス画面では別の名称を使っている。
登録したロゴとは違うデザインのロゴを使っている。
登録した指定役務とは違う事業でだけ使っている。
LPには表示されているが、請求書や契約書では別の名称を使っている。

特にAI SaaSでは、LPと実際の管理画面、契約書、請求書、アプリストア表示で名称が異なることがあります。商標登録後も、実際に使っている名称やサービス内容が登録内容とずれていないかを確認し、次のような資料を継続的に残しておくことが重要です。

商品・パッケージ写真、Webサイトのサービス紹介ページ
請求書、納品書、契約書、取引先への提案資料
サービス画面、アプリストア画面、利用者向けメール
広告、パンフレット、カタログ、LP

この場面で使いやすい公証事務は確定日付です。たとえば、請求書、契約書、提案資料、パンフレットなど、登録商標の使用を示す資料一式について、その資料がある時点で存在していたことを証明することが可能になります。

4. 相手方の使用表示を残す

他社が似た名前やロゴを使っている場合、Webページ、SNSアカウント、広告などの表示は、後から変更・削除されることがあります。そのため、いつ、どこで、どのような表示がされていたかを確実に残しておく必要があります。

相手方Webサイト、LP、ECページ、アプリストア表示
SNSアカウント名、SNS投稿、Web広告表示
検索結果画面、取引画面
商品写真、パッケージ、パンフレット、展示会資料

この場面で特に使いやすいのは、事実実験公正証書です。公証人が、実際にWebページやアプリストア等を確認し、その時点の表示状態を公文書として残すことができます。

ただし、公証人は「商標が似ているか」「商標権侵害にあたるか」を判断するわけではありません。公証人が残すのは、あくまで「その日時に、その表示が存在していた」という事実です。商標の類否や侵害可能性は別途検討する必要があります。

実務で残しておきたい資料リスト

商標の使用証拠は、後からまとめて作るものではありません。名前やロゴを使い始めた段階から、自然に残る資料を整理しておくことが重要です。

自社の使用証拠
商品写真、パッケージ、Webサイト、LP、サービス画面、アプリストア画面、カタログ、パンフレット、広告、プレスリリース、SNS投稿、YouTube動画、note記事、請求書、納品書、契約書、顧客提案資料
時期を示す資料
公開日が分かるWeb記録、作成日入り資料、メール、請求日、納品日、広告配信記録、SNS投稿日時、タイムスタンプ、確定日付
周知性・使用実績を示す資料
売上、広告費、広告配信実績、PV・アクセス数、導入社数、顧客数、メディア掲載、展示会出展、受賞歴、SNSフォロワー数、問い合わせ数
相手方表示を示す資料
Webページ、LP、ECページ、アプリストア画面、SNSアカウント、広告、商品写真、パンフレット、展示会資料

よくある誤解(Q&A)

Q 公証すれば、商標登録したのと同じですか?

違います。公証制度は商標権を発生させる制度ではありません。名前やロゴを独占的に守るには、商標登録を検討する必要があります。

Q 先に使っていた証拠があれば、他人の登録商標に対抗できますか?

常に対抗できるわけではありません。商標では、先に使っていたことだけでなく、需要者の間に広く認識されていたことなどが問題になります。

Q 使用実績があれば、識別力が弱い名前でも登録できますか?

必ず登録できるわけではありません。商標法第3条第2項の適用を考える場合でも、その名前が自社の商品・サービスを示すものとして需要者に認識されていることを、具体的な資料で説明する必要があります。

Q 商標登録後も使用証拠を残す必要がありますか?

あります。不使用取消審判などの場面では、登録商標を指定商品・指定役務について使用していたことを説明する必要があります。

Q Webページのスクリーンショットだけで十分ですか?

十分とは限りません。URL、表示日時、ページ内容、商品・サービスとの関係、取引実態が分かる資料と組み合わせる必要があります。

Q 公証人は商標侵害かどうかを判断してくれますか?

判断しません。公証人は事実を公証する立場であり、商標の類否や侵害判断は別途検討が必要です。

公証制度を使う前に、整理しておきたいこと

公証制度は、商標登録の代わりになる制度ではありません。また、公証を受ければ、名前やロゴが当然に守られるわけでもありません。

大切なのは、公証制度を使うかどうかの前に、何を後から説明したいのかを明確にすることです。その名前を、いつから使っていたことを残したいのか。どの商品・サービスについて使っていたことを説明したいのか。需要者に知られていたことを示したいのか。登録後の使用を残したいのか。相手方の表示を保全したいのか。

名前は、使い始める前に確認するのが基本です。ただし、すでに使っている名前についても、使用証拠をどう残すかで、後日の説明力が大きく変わります。

『商標の余白』では、サービス名、ロゴ、AIエージェント名、SaaS名について、商標調査、登録可能性、そして実務に即した使用証拠の整理までをトータルでサポートします。

執筆・文責

弁理士 中村幸雄

サービス名、商品名、屋号、ロゴ、AIエージェント名など、名前とブランドに関する商標相談を扱う弁理士。 「商標の余白」では、名前を使い始める前に、商標面の不安や登録可能性、先行商標との距離感を整理するための情報を発信しています。