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この記事の結論
商標の使用記録は、「Webサイトのスクリーンショットを1枚保存しておけばよい」というものではありません。
少なくとも、次の4点がつながるように資料を残しておくと、対応関係を確認しやすくなります。
一つの資料ですべてを示せる場合もありますが、実務では複数の資料を組み合わせて説明することもあります。
不使用取消審判への備えは、日常の記録から
Webサイトにブランド名を載せている。商品にもロゴを付けている。毎日のようにその名称でサービスを提供している。
それでも、数年後に「その商標を使っていたことを示してください」と言われたとき、すぐに資料を出せるとは限りません。
Webサイトは更新され、古い商品ページは消えます。パンフレットは改訂され、過去の請求書や広告データがどこにあるのか分からなくなることもあります。
不使用取消審判への備えとして大切なのは、資料を大量に保存することではありません。
「どの商標を、誰が、何の商品・サービスについて、いつ使っていたか」を後からつなげて説明できるよう、日常の事業活動を記録しておくことです。
「使っている」と「後から説明できる」は別の問題
登録商標の使用記録が重要になる代表的な場面が、不使用取消審判です。
日本国内で継続して3年以上、商標権者、専用使用権者、通常使用権者のいずれもが、対象となる指定商品・指定役務について登録商標を使用していない場合、その登録について不使用取消審判を請求されることがあります。
審判を請求された場合、登録商標を使用していたことを立証するのは商標権者側です。
ここで問われるのは、会社の担当者が「ずっと使っています」と説明できるかではなく、その使用を資料によって示せるかです。
そのため、問題が起きてから資料を探すのではなく、普段の事業活動の中で、使用状況を記録しておくことが重要になります。
まず確認するのは「何を記録するか」
使用記録というと、領収書、パンフレット、Webサイトなど、資料の種類から考えがちです。
しかし、先に確認すべきなのは資料名ではありません。
たとえば自社が「ABC」という登録商標を持っているなら、確認したいのは次の関係です。
| 確認すること | 資料から読み取りたい内容 |
|---|---|
| 商標 | 「ABC」という表示が確認できるか |
| 商品・サービス | 何について「ABC」を使っているか |
| 使用主体 | 自社または使用権者による使用と確認できるか |
| 時期 | いつ使用していたか確認できるか |
この4点が一本の線としてつながっていることが重要です。
例えば、「ABC」というロゴが大きく表示されたWebページを保存していても、保存日や掲載時期が分からなければ、いつ使用していたのかについて別の資料が必要になることがあります。
反対に、日付の入った請求書が残っていても、そこにブランド名や対象サービスが記載されていなければ、その請求書だけで商標の使用との関係を説明しにくいことがあります。
実務で役立つ使用記録とは、1枚の特別な書類ではなく、必要な事実を複数の資料でつなげられる状態です。
Webサイトは「表示」と「日付」を一緒に保存する
サービス業では、Webサイトが商標の使用状況を示す重要な資料になることがあります。
保存するのであれば、ブランド名だけを切り取るより、次の内容が分かる形にしておく方が、後から関係を確認しやすくなります。
例えばサービス紹介ページなら、「ABC」という名称だけでなく、「ABC」がどのようなサービスの名称として使われていたのかまで分かる形で保存します。
Webページは書き換わります。
そのため重要なブランドについては、サービス開始時、サイトの大きな改修時、ロゴ変更時などに、当時のページをPDFや画像などで保存する方法があります。
保存時には、ファイル名に日付を入れたり、対象ページのURLや保存者を記録したりしておくと、後から確認しやすくなります。
商品では、商標と商品の関係が見える写真を残す
商品については、商標が付された商品、パッケージ、ラベルなどの写真が使用状況を確認する材料になります。
この場合も、ロゴだけを大きく撮影するより、
「この商標が、この商品について使われている」
ことが分かる写真の方が、後から説明しやすくなります。
パッケージ変更やロゴ変更を行う場合には、旧パッケージを廃棄する前に写真を残しておくことも考えられます。
販売時期まで確認できるようにするため、商品写真だけでなく、当時のカタログ、販売ページ、納品書などと組み合わせて保存しておくと、商標と商品の関係が見えやすくなります。
請求書や納品書は「取引があったこと」を補う
請求書、納品書、注文書、領収書などの取引書類も重要です。
ただし、ここには一つ注意点があります。
実際の請求書では、
「コンサルティング料 一式」
「システム利用料」
などとだけ記載され、ブランド名が入っていないことがあります。
この場合、その請求書だけを見ると、登録商標との関係が分かりません。
例えば、
Webサイト
→ 「ABC」が特定サービスの名称であることを示す
申込書・契約書
→ 顧客が「ABC」を申し込んだことを示す
請求書・入金記録
→ 実際に取引が行われたことを示す
というように資料をつなげると、一連の事業活動を説明しやすくなります。
特許庁の検討資料でも、請求書や領収書だけでは商標を特定できない場合があるため、発注書やメールなど、商標との関係をつなぐ資料を残す企業の実務が紹介されています。
広告やSNSも、消える前に保存する
広告、プレスリリース、SNS投稿、ECサイトの商品ページなども、ブランドが市場でどのように使われていたかを示す材料になります。
特にSNSやWeb広告は、後から同じ画面を再現できるとは限りません。
重要なキャンペーンや新商品の発売時には、次の内容が確認できる形で保存しておくと、その後の確認が容易になります。
「インターネット上に残っているはず」と考えるより、自社で必要な記録を持っておく方が確実です。
ライセンシーが使っている場合は、使用者との関係も残す
登録商標を、商標権者自身ではなく、子会社、販売会社、加盟店などが使用することもあります。
不使用取消審判では、専用使用権者や通常使用権者による使用も対象になります。
その場合には、次の資料を対応させておくと、使用の事実を確認しやすくなります。
ブランドの使用主体が増えたときは、商標登録だけを見るのではなく、「誰が、どの範囲で、この商標を使っているのか」も確認するタイミングです。
登録商標と、実際に使っている表示も確認する
もう一つ見落としやすいのが、登録した商標と現在使っている表示との違いです。
例えば、
といった変化です。
不使用取消審判では、登録商標そのものの使用に加え、一定の範囲で社会通念上同一と認められる商標の使用も考慮されます。
ただし、表示の変更がどこまで許容されるかは、個別の商標によって判断が変わります。
使用記録を見直す作業は、単にファイルを残すだけではありません。
いま使っているブランド表示が、登録した商標とどのような関係にあるかを確認する機会にもなります。
問題が起きてから「使い始める」では遅い場合がある
不使用取消審判には、いわゆる「駆け込み使用」に関する規定があります。
審判請求前3か月から請求の登録日までの使用で、商標権者や使用権者が審判請求されることを知った後に行われたものについては、一定の場合、取消しを免れるための使用として扱われません。
つまり、
問題が起きてから形だけ使用実績を作るのではなく、通常の事業活動の中で使ってきた記録を残しておくこと
に意味があります。
普段の事業活動そのものが、最も自然な使用記録になります。
何を残せばよいか――実務上のチェックリスト
重要な商標であれば、次のような資料が保存の候補になります。
| 資料 | 主に確認できること | 一緒に残したいもの |
|---|---|---|
| Webサイト | 商標、商品・サービス、使用主体 | URL、保存日 |
| 商品・包装の写真 | 商標と商品の関係 | 撮影時期、販売資料 |
| パンフレット・カタログ | 商標、商品・サービス | 発行・配布時期 |
| 広告・SNS | 商標、宣伝内容 | 掲載日、媒体 |
| 注文書・申込書 | 商品・サービスと取引 | 商標との対応関係 |
| 契約書 | サービス内容、使用主体 | 実際の取引資料 |
| 請求書・納品書・領収書 | 取引時期、取引実績 | 商標を特定できる資料 |
| 使用許諾契約 | 商標権者と使用者の関係 | ライセンシーの実際の使用資料 |
すべてを残す必要があるという意味ではありません。
自社の事業形態に合わせて、4つの点――商標、商品・サービス、使用主体、時期――を後から説明できる組み合わせを作ることが目的です。
使用記録を残すタイミング
法律上、「毎年この日に使用記録を保存する」という決まりがあるわけではありません。
実務上は、例えば次のタイミングで確認すると管理しやすくなります。
重要なブランドについては、こうしたイベント時に加えて、一定期間ごとに「現在の使用を示す資料が残っているか」を確認する運用も考えられます。
例えば、年1回程度、登録商標ごとに次の項目を確認する方法があります。
商標の使用記録は、ブランド管理の一部
商標の使用記録というと、争いに備えて書類を保管する作業のように見えます。
しかし実際に確認していくと、
といった、登録後の商標管理そのものが見えてきます。
つまり使用記録を残すことは、
過去の使用を説明するためだけでなく、現在の事業と商標登録とのズレを見つける機会
にもなります。
現在の使い方で、どの資料を残せばよいか分からないときは
商品、店舗、Webサービス、コンサルティング、SaaSなど、事業の形によって残しやすい記録は変わります。
また、登録商標と現在使っている表示が異なる場合や、登録時から事業内容が広がっている場合には、記録の保存だけでなく、現在の登録内容自体を確認した方がよいこともあります。
商標の使用記録は、次の順序で確認すると進めやすくなります。
現在どのように使っているか
→ どの資料が残っているか
先使用権や公証制度など、商標の証拠を残す必要が生じる場面全体については、「商標の証拠はいつ残すべきか――先使用権・不使用取消と公証制度」で解説しています。
不使用取消審判への備えとして、Webサイトや取引書類を具体的にどう保存するかを確認したい場合や、現在の使用状況と登録内容との関係に気になる点がある場合は、初回相談からご相談ください。
