この記事の結論

名前が差別化の中心になるブランドほど、発売や広告制作に投資する前に先行商標を調査し、その名称の識別力と出願範囲を検討すべきです。

健康志向の反対側を選んだ「ギルティ炭酸 NOPE」

サントリー食品インターナショナルは、2026年3月に「ギルティ炭酸 NOPE」を発売しました。公式発表では、健康志向とは対極にある「ギルティ消費」に着目した商品と説明されています。

健康、低負担、罪悪感の少なさを訴えるのではなく、甘濃さや背徳感を前面に出している点で、一般的に好まれやすい価値の反対側を選んだ例と見ることができます。

本稿では、このように一般的に好まれやすい価値の反対側を選ぶブランドを「逆張りブランド」と呼びます。

逆張りコンセプトそのものは商標で独占できるか

考え方やポジショニングそのものを、知財で広く独占することは簡単ではありません。「健康志向への逆張り」「少し背徳感のある商品」「業界の常識をずらしたポジション」——こうしたコンセプトは事業の方向を決めるうえで欠かせませんが、それだけで他社に「使わないでください」と言える形にはなりません。

知財で検討できるのは、もう少し具体化された要素です。商品名やロゴであれば、商標として保護できるかを検討します。ロゴそのもののデザインには著作権が関係することがあり、パッケージの形状や容器については、意匠として保護できるかを検討します。技術的な工夫があれば、特許や実用新案の対象になる場合もあります。

ブランドの要素 主に検討する制度 確認すること
商品名・サービス名 商標 先行商標、識別力、指定商品・指定役務
ロゴ・ブランドアイコン 商標、著作権 商標として登録する必要性、制作物の権利帰属
パッケージ・容器の見た目 意匠 保護できる形状や模様があるか、公開前に出願できるか
広告写真・イラスト・文章 著作権 制作者、利用範囲、権利帰属
技術的な工夫 特許、実用新案 技術として具体化されているか、公開前に出願できるか
世界観・立ち位置・発想 単独での独占は難しい 名前、ロゴ、パッケージなど、保護を検討できる要素へ具体化する

同じ要素に複数の制度が関係する場合があります。この表は、ブランドを構成する要素ごとに、最初に何を確認するかを示した一般的な目安です。

「この企画は面白いか」だけでなく、「どの要素が自社らしさを示す目印になるのか」まで分解して考えておくと、後の対応がしやすくなります。

発売後に名前の問題が判明するとどんなコストが生じるか

逆張りブランドは、名前や世界観そのものが差別化の軸になるぶん、名前が使えなくなった時のダメージが大きくなりやすいという特徴があります。

名前が決まると、社内でも勢いがつきます。デザインが進み、パッケージの印刷が動き、広告の準備が始まります。しかし、その段階で先行商標の調査や名称の識別力の評価を後回しにすると、思わぬ手戻りが起きることがあります。

よくあるのは、似た商標がすでに登録されていたというケースです。説明的な言葉に近すぎて登録しにくい構造だった、ということもあります。国内では見えにくかった問題が、海外販売の段階で表面化することもあります。

こうした問題がECページの公開後、プレスリリースの配信後、展示会への出展後に判明すると、商標出願だけで解決できる話ではなくなります。ブランド名の変更、在庫の処分、取引先への説明まで含めると、実務上の負担は大きくなります。

名前への投資が始まる前が、最も取り返しのきくタイミングです。この点については商標登録はいつ申請するべきかでも解説しています。

ブランドが成功した後にどんな商標リスクが生じるか

もう一つのリスクは、ヒットした後に現れます。目立つ商品は、模倣の対象になりやすくなります。まったく同じ名前でなくても、似た語感の名前を使われる。似た色使いや雰囲気のパッケージが出てくる。世界観だけを借りた後発商品が登場する。

特に、業界の常識をずらしたポジショニングは、後から参入しやすいポジションでもあります。先行者が「なぜそこに誰もいなかったか」を証明してしまうからです。

商標権ですべてを止められるとは限りません。商標権が対応しやすいのは、名前やロゴなど出所を示す目印が模倣された場合です。パッケージや容器の形状そのものを真似された場合は意匠権、広告コピーや写真であれば著作権など、対象によって関わる法律が変わります。

ただ、商品名やサービス名が事業の中心にある場合、まず先行商標を調査し、その名称について登録を目指すかを早めに検討しておきたいところです。ここを押さえていないと、後から権利として主張できるものが何も残らない状況になりかねません。

発売前に名前・ロゴ・指定商品・役務の何を確認すべきか

商品名、サービス名、ブランド名を使い始める前に検討しておきたいことは、いくつかあります。まず、同一または類似の商標がないかを調査し、名前が説明的すぎて登録しにくい構造になっていないかを評価します。また、実際に使用する商品・サービスに合わせて指定商品・役務を選定します。次に、文字商標として押さえるべきか、ロゴ商標も必要かを検討します。この判断は事業の使い方によって変わります(ロゴ商標と文字商標、どちらを登録すべきかも参考にしてください)。

商品名以外にも、確認しておきたい点があります。パッケージや容器に保護できる形状の特徴があれば、意匠として検討できる可能性があります。意匠の保護は、公開や販売を始める前に動き出す方が、選択肢を広く取れます。外部のデザイナーや制作会社と組む場合は、著作権の帰属が契約で明確になっているかを確認しておくと安心です。将来的に海外展開を考えているなら、国内出願のタイミングも早めに意識しておくとよいでしょう。

これらは企画を止めるためのチェックではありません。安心して進めるための確認です。

商標や意匠の検討を企画にどう活用するか

商標や権利の話をすると、せっかくの企画に水を差すように受け取られることがあります。ただ、発売前に商標や意匠による保護を検討しておくのは、作った違いを後から守りやすくしておくためです。

逆張りの名前を使うなら、その名前を使い続けるうえでの商標リスクを検討する。特徴のあるパッケージを採用するなら、形や見た目をどう守るかを考えておく。独自の世界観を打ち出すなら、守れる形にできる要素がどこにあるかを見つけておく。発売前にそこまで確認しておくと、企画が一時的な話題で終わらず、長く使えるブランドとして残りやすくなります。

逆張りブランドほど、発売前の知財検討が、長く使えるブランドかどうかを分けます。

よくある質問

Q逆張りブランドとは何ですか?

本稿では、健康志向に対して背徳感を打ち出すなど、一般的に好まれやすい価値の反対側を選び、それをブランドの特徴にしたものを「逆張りブランド」と呼んでいます。法律上の分類や、商標制度上の正式な用語ではありません。

Q逆張りのコンセプトそのものを商標登録できますか?

考え方やブランドの立ち位置そのものを、商標として登録することはできません。商標として保護を検討できるのは、その考え方を具体的に表した商品名、サービス名、ロゴ、ブランドアイコンなどです。

Q逆張りブランドの商標調査は、いつ行うべきですか?

商品名やサービス名の候補が決まり、ロゴ、パッケージ、Webサイト、広告などの制作へ進む前に行うのが基本です。発売後に名称の問題が判明すると、名称変更だけでなく、制作物や在庫の作り直しが必要になる可能性があります。

Q名前、ロゴ、パッケージは別々に保護を考える必要がありますか?

それぞれ保護を検討する制度が異なります。商品名やロゴは商標、パッケージや容器の見た目は意匠、広告写真やイラストは著作権が関係する場合があります。ブランドで継続して使う要素を確認し、必要な保護を個別に検討します。

Q似た世界観の商品が登場したら、商標権で止められますか?

世界観や商品の立ち位置が似ているだけでは、商標権で止められるとは限りません。商品名やロゴが類似し、商品・サービスも同一または類似する場合には、商標権に基づく対応を検討できる可能性があります。パッケージ、写真、広告表現などについては、対象に応じて意匠権や著作権なども確認します。

無料相談では、候補名の状況、使用予定の商品・サービス、ロゴやパッケージの有無をお聞きした上で、まず何を調べ、検討すべきかをお伝えします。「この名前で進めてよいか」を考える段階でも、お使いいただけます。

参考資料

  1. e-Gov法令検索「商標法(昭和34年法律第127号)」(第3条・第4条、2026年8月5日閲覧)
  2. 特許庁「商標審査基準〔改訂第17版〕」(2026年4月1日施行、2026年8月5日閲覧)
  3. 特許庁「商標を検索してみましょう」(2026年8月5日閲覧)
  4. INPIT J-PlatPat「商標検索」(2026年8月5日閲覧)
  5. サントリー食品インターナショナル「『ギルティ炭酸 NOPE(ノープ)』3月24日(火)新発売!」(2026年8月29日閲覧)

執筆・文責

弁理士 中村幸雄

サービス名、商品名、屋号、ロゴ、AIエージェント名など、名前とブランドに関する商標相談を扱う弁理士。 「商標の余白」では、名前を使い始める前に、使用リスクや登録の見通しを確かめるための情報を発信しています。