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この記事の結論
AIサービスの指定商品・役務は、「AIを使っている」という技術の説明からではなく、「誰に、何を、どのような形で提供しているか」から考えることが出発点になります。
生成AI、AIエージェント、業務支援AIなど、AIを利用したサービスが増えています。
こうしたサービス名を商標出願するとき、「AIサービスなら第42類」と考えるケースがあります。
たしかに、第42類にはオンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS)などが含まれます。さらに、2026年1月1日から適用された国際分類第13-2026版では、「サービスとしての人工知能の提供(AIaaS)」も第42類に追加されました。
ただ、同じAI技術を使っていても、顧客に提供しているものはさまざまです。
AIソフトウェアをダウンロードさせる。ブラウザ上で利用させる。APIから機能を利用させる。事業者自身がAIを使って分析し、結果を納品する。AI活用について助言する。研修を行う。
AIサービスの指定商品・役務は、「AIを使っている」という技術の説明からではなく、「誰に、何を、どのような形で提供しているか」から考えることが出発点になります。
同じAIでも、顧客が受け取るものは違う
例えば、企業向けの市場分析AIを考えてみます。
A社では、利用者自身がWebブラウザから条件を入力し、AIによる分析結果を取得します。
B社では、顧客からデータを受け取り、事業者側がAIを使って市場を分析し、担当者がレポートを作成して納品します。
どちらも「AI市場分析サービス」と表現できます。
しかし、A社で顧客が利用している中心的なものは、オンライン上のソフトウェアです。B社では、市場調査・分析という業務自体を顧客が依頼しています。
この違いが、指定商品・役務を考える入口になります。
商標登録出願では、実際に商標を使用している、または使用する予定のある商品・役務を指定します。先に区分番号を決めるより、自社が顧客に提供しているものを具体化した方が、実際の事業に合う指定内容を見つけやすくなります。
提供形態から見るAIサービスの指定商品・役務
代表的な提供形態を並べると、次のようになります。
| 提供形態 | 顧客に提供しているもの | 主な検討区分 | 確認したい点 |
|---|---|---|---|
| ダウンロードソフト・アプリ | ソフトウェアそのもの | 第9類 | ダウンロードして利用するプログラムか |
| SaaS・Webアプリ | オンライン上のソフトウェア利用環境 | 第42類 | クラウド上でプログラムを利用させる形か |
| AIaaS | AIサービス・AIツールの利用環境 | 第42類 | AI機能そのものをサービスとして提供しているか |
| API提供 | APIを介して利用できる機能 | 第42類等 | APIの先で何を利用できるのか |
| AIを利用した業務代行 | 調査・広告・文書作成などの業務 | 業務内容による | 顧客が依頼している業務は何か |
| コンサルティング | 助言・判断支援 | 第35類、第42類等 | 経営上の助言か、技術上の助言か |
| 教育・研修 | 知識の教授・研修 | 第41類等 | ソフトウェア提供とは別のサービスか |
| AI搭載機器 | 機器そのもの | 商品による | 「AI搭載」より商品の種類を見る |
この表だけで区分を決定することはできません。同じ「分析」でも、市場分析、技術分析、金融分野の分析など、目的と提供内容によって検討対象が変わります。
第9類と第42類――「ソフトウェアを渡す」のか「使わせる」のか
AIサービスでまず確認したいのが、第9類と第42類です。
ダウンロード可能なコンピュータソフトウェアは第9類、電気通信回線を通じてコンピュータプログラムを利用させるサービスは第42類が基本的な検討対象になります。
第42類の「電子計算機用プログラムの提供」には、類似群コード42X11が付されています。
類似群コードとは、商品・役務の類似関係を審査するために、共通性のある商品・役務のグループに付されているコードです。特許庁では、同じ類似群コードが付された商品・役務について、審査実務上、原則として互いに類似するものと推定しています。
例えば、同じAI文章作成サービスでも、スマートフォンにアプリをダウンロードして使用する形と、ブラウザからログインしてクラウド上で使用する形では、指定商品・役務の考え方が変わります。
一つのブランドで、Web版とダウンロード版の両方を提供するサービスもあります。その場合は、実際に商標を使用する双方の提供形態を確認します。
ここで重要なのは、第9類と第42類を先行商標調査でも完全に切り離して考えられるわけではないという点です。
類似商品・役務審査基準では、第42類の「電子計算機用プログラムの提供」と第9類の「電子計算機用プログラム」は、区分をまたいで類似と推定される関係に置かれています。
したがって、「第42類で出願するから、第9類の先行登録は関係しない」と考えるのは適切ではありません。商標調査では、区分番号だけでなく、指定商品・役務とその類似関係まで確認する必要があります。
2026年に追加された「AIaaS」はどう考えるか
国際分類第13-2026版では、第42類に「サービスとしての人工知能の提供(AIaaS)」が追加されました。
特許庁の「主な変更点」では、AIaaSについて、クラウドコンピューティングプラットフォーム上でAIサービスやツールを利用できるようにする、大規模な組織や法人向けのAIサービスと説明しています。利用者は、自ら機械学習モデルを作成したり、基盤となるインフラへの投資や維持を負担したりすることなくAI機能を利用できる、という説明です。
AIaaSには42X11が付されています。「電子計算機用プログラムの提供」も42X11です。
つまり、「AIaaS」という新しい表示が加わったことで、従来のソフトウェア提供とは別の類似群が新設されたわけではありません。
表示の選択は、単に保護範囲を広げるためではなく、自社が実際に提供するサービスを適切に表すために行うことが基本になります。
先行商標調査でも同様です。AIaaSについて出願するときは、「AIaaS」という表示の登録だけを見るのではなく、同じ42X11に属する既存のソフトウェア提供に関する登録も確認する必要があります。
API提供は「APIだから第42類」と考えない
AIサービスでは、文章生成、画像解析、翻訳、音声認識などの機能をAPI経由で外部システムから利用できるようにする提供形態も増えています。
この場合、「API」という名称だけから指定役務を決めるのではなく、APIを通じて顧客が何を利用できるのかを確認します。
例えば、AIモデルの推論機能をクラウド上で利用させているのであれば、オンラインによるソフトウェア提供やAIaaSとの関係が問題になります。
一方、APIを窓口として、市場情報、金融サービス、広告サービスなど別の役務を提供している場合には、その本体となる役務も検討対象になります。
APIはサービスの接続方法です。
「APIを提供している」から一歩進み、「APIの向こう側で顧客に何を提供しているのか」を見ることがポイントです。
AIがサービスなのか、AIを使ってサービスをしているのか
AIサービスの指定商品・役務を考えるとき、もう一つ有効なのがこの区別です。
利用者自身がAI市場分析ツールを操作する場合、中心になるのはソフトウェアの利用です。
一方、事業者が顧客から依頼を受け、AIを使って市場調査を行い、分析結果をレポートとして納品する場合、顧客が依頼しているのは市場調査・分析という業務です。
第35類には「市場調査又は分析」「経営の診断又は経営に関する助言」などが位置付けられています。
この場合、AIは役務を提供するための手段として使われています。
同じ考え方は、文章作成、広告運用、採用支援、事務代行などにも当てはまります。
Webサイト上で「AIサービス」と表示していても、商標出願では、その名称を何のサービスの目印として使っているのかを具体的に見ていきます。
コンサルティングや研修を組み合わせる場合
一つのAIサービスに、人による支援が組み合わされることもあります。
例えば、「AI経営支援」という一つのブランドで、AIツールをSaaSとして提供し、顧客のデータを分析し、分析結果をもとに経営上の助言を行い、導入時に社員研修まで実施するケースです。
ブランドは一つでも、顧客に提供している役務は複数あります。
経営に関する助言であれば第35類、知識の教授や研修であれば第41類などが検討対象になります。一方、国際分類の第42類には「人工知能に関する助言」という表示も掲載されています。その類似群コードは42N03、42P02、42Q02、42Q99です。「人工知能に関する助言」は少なくとも第12-2025版にも掲載されていることが確認できます。
したがって、「コンサルティング」という言葉だけでも区分は決まりません。
経営について助言するのか、AI技術について助言するのか。分析の場合も、市場を分析するのか、技術的なデータを解析するのか。
サービスの目的と、顧客が受け取る価値まで見る必要があります。
AI搭載機器は「AI」より商品そのものを見る
AIを搭載した物理的な商品を販売する場合は、AI機能だけを見て区分を考えると実態から離れます。
例えば、画像認識機能を備えたカメラと、AIによる制御機能を備えた掃除機では、商品の種類が異なります。
同じブランドで機器とクラウドサービスの双方を提供する場合には、機器そのものと、オンラインサービスの双方について確認します。
無料版・有料版・OEMはどう考えるか
無料版と有料版がある場合、料金の有無だけから区分が変わるわけではありません。
無料版では基本的なSaaS機能だけを提供し、有料版では分析レポートやコンサルティングまで加わるのであれば、追加される役務についても検討します。
OEMでは、技術的な提供内容に加え、自社商標がどの商品・役務について、誰によって、どの場面で使われるのかも確認しておきたいところです。
不使用取消審判では、審判請求の登録前3年以内に、日本国内で、商標権者、専用使用権者または通常使用権者が、その請求の対象となる指定商品・指定役務について登録商標を使用していたかが問題になります。
OEM先のブランドだけが利用者に表示され、自社商標が表に出ない事業モデルでは、出願時だけでなく、登録後に自社商標がどのように使用されるのかも意識しておく必要があります。
自社商標を付した広告や取引書類なども含め、実際の使用状況を確認します。
使用者や時期を確認できる記録の残し方は、不使用取消審判に備える商標の使用記録で整理しています。
出願前に「サービス一覧」を作ってみる
AIサービスは機能追加が速く、SaaS、API、人による支援、コンサルティング、研修などが一つのブランドに集まりやすい分野です。
出願前には、例えば次の項目を書き出してみます。
| 確認項目 | 例 |
|---|---|
| サービス名 | ○○AI |
| 主な利用者 | 法人の営業部門 |
| 利用方法 | ブラウザからログイン |
| 顧客が利用するもの | AI文章生成機能 |
| ダウンロード版 | あり |
| API | あり |
| 人による業務 | 初期設定支援 |
| コンサルティング | 有料プランで提供 |
| 研修 | 導入時に実施 |
| 今後追加予定 | 顧客データ分析 |
この一覧から、顧客に提供する商品・役務を一つずつ確認していきます。
J-PlatPatの「商品・役務名検索」では、出願時に適用される国際分類の版を選び、「類似商品・役務審査基準」「商品・サービス国際分類表」「審査において採用された商品・役務名」などを検索できます。
「何類だろう」と区分番号から考え始めるより、事業の内容を具体化し、それに対応する商品・役務表示と類似群を確認する方が、実際のサービスに沿った出願につながります。
登録後に提供内容が変わった場合の確認事項は、登録後に確認したい6つのズレも参考になります。
よくある質問
QAIサービスなら第42類を指定すればよいですか?
SaaS、AIaaS、オンラインによるソフトウェア提供では、第42類が重要な候補になります。一方、ダウンロードソフトウェア、経営コンサルティング、教育・研修、各種業務代行、AI搭載機器などを同じブランドで提供する場合には、他の区分も検討します。
Qアプリ版とWeb版の両方があります。第9類と第42類の両方が必要ですか?
ダウンロードして利用するアプリと、オンライン上で利用するサービスの双方について同じ商標を使用する場合、それぞれの提供形態を確認します。また、第9類の「電子計算機用プログラム」と第42類の「電子計算機用プログラムの提供」は類似と推定される関係にあるため、先行商標調査でも双方を意識する必要があります。
QAIaaSを追加すれば、従来のSaaSより広く保護できますか?
AIaaSには42X11が付されており、「電子計算機用プログラムの提供」も同じ42X11です。AIaaSという表示を追加すれば当然に別の類似範囲が得られるという関係ではありません。実際の提供内容を適切に表す指定役務を選ぶことが基本です。
QAPIを提供していれば第42類ですか?
APIという提供方法だけでは決まりません。APIを通じて利用できる機能やサービスを確認します。AI・ソフトウェア機能をオンラインで利用させるサービスであれば第42類が候補になりますが、APIを通じて別の役務を提供している場合には、その役務も検討します。
QAIを使ったコンサルティングは何類ですか?
助言の内容から考えます。例えば、経営に関する助言であれば第35類、人工知能に関する技術的な助言であれば第42類が候補になる場合があります。「AIを使っている」という点より、顧客に何について助言しているのかを見ることが重要です。
Q将来追加するサービスまで指定した方がよいですか?
現在の事業に加え、開始時期や提供内容が具体化しているサービスは検討対象になります。一方、指定商品・役務は、商標を使用している、または使用する予定があるものを基準にします。一つの区分内でも指定範囲が広くなると、審査で商標の使用または使用予定について確認を求められる場合があります。
AIサービスの商標は、事業の形から考える
一つのAIシステムから、複数の商品・役務が生まれることがあります。
ソフトウェアをダウンロードさせる。クラウド上で利用させる。APIから機能を提供する。AIを使って業務を行う。分析結果をもとに助言する。利用方法を研修する。
技術的には一つにつながっていても、商標上はそれぞれの提供内容を見る必要があります。
商標の余白では、サービス名の先行商標調査だけでなく、現在の事業内容や今後の展開を確認しながら、どの商品・役務について出願するかも検討しています。
「AIサービスなので何類か」ではなく、「この名前を、顧客に何を提供するブランドとして使うのか」。
そこから考えることが、実際の事業と商標登録をつなげる出発点になります。
